永妻です。
改めて、今年も宜しくお願い致します。
昨年に引き続き、『ふりかえって』の第二段です。
今日は『フレンチトースト』
前回の短編後に、BARでの公演のお誘いがありました。
ダンス、演劇、音楽、のコラボ企画でした。
演劇は二十分くらいのお時間を頂き、
前回に引き続き、未浦さんと自分が出演という形でのご依頼でした。
これは七年前の11月が本番でした。
最初は『透明人間の舌』をそのまま、というお話だったのですが、
せっかくだから、BARに合ったお話が書きたいと思い、新作にさせて頂きました。
当初、『BOX』というお話を書いて、稽古を始めていたのですが、
急に気が変わり、違う話を書き始め、それがこの『フレンチトースト』
(本番までけっこう時間なかったのに)
相手役の方には本当に迷惑をかけました。
物語は、
あるBARに不思議な女性客がやってきます。
彼女はウェイターを捕まえて、奇妙な夢の話を始めます。
「ほとんどフレンチトーストで始まって、ほとんどフレンチトーストで終わる話」、です。
ウェイターに話していた奇妙な夢の話の中に、やがて彼女自身が呑み込まれていき、そして、、、。
みたいな。
一週間くらいの猛スピードで書いた話でしたが、
ダンスと音楽に上手く繋がり、自分の個性も出し切った、いまだに好きなお話です。
いつかこの長編をAppleでやりたいなぁと、思っているくらい。
このとき演出は、未浦さんと二人でアイデアを出し合ったものですが、
今のAppleの基盤になるような、不思議な演出の数々でした。
評判は上々で、初めて自信になった作品でもあります。
ちなみに、このときダンスで参加したのは現劇団員の恩田和恵。
一言だけ芝居の方にも出演。
たった一言なのに、製氷機の氷が落ちる音と見事にかぶるっていう、ミラクルを起こしました。
さすが。
それから、
忘れっぽい自分にしては珍しく、ラストの長台詞を、いまだに全部覚えています。
(相手役の台詞なのに)
せっかくなので、
「無視される沈黙は海の底を連想させる。きっと絶望の住処もその辺りだって私はいつも考える。ここはいったい何処なの?いつになったら目が覚めるの?私はいったい誰なんだろ、誰なんだろ、誰なんだろ、誰!?、、、耳を失ったウサギの気分だ。でも違う。私には耳がある。そうだ、音楽を聴こう。海底に沈んだ色のない暗がりにいながら、私はふと、そんなことを思った。人って不思議だ。夢なんかより、ずっと、ずっと。」
だったと記憶しています。
台詞だけ見ると、大した事ないけれど、
かなり思い入れのある、一番好きな長台詞かも。
これを観た、俳優の柘植裕士さんが参加したいと言ってくださり、
BAR公演の長編を創る、という流れになります。
これがAppleの第一回公演です。
このお話は次回。
★
『フレンチトースト』は自分が創ったお芝居で初めてギャラをもらった作品でもありました。
受け取ったときの感動はいまだに覚えています。
あのギャラはそのまま大事にしまっていたり。
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余談ですが、今年は『FrenchToast的、失踪』というお話を公演します。
『オドル』という公演でも、フレンチトーストが登場しました。
フレンチトーストは、ちょっと思い入れのある食べ物です。
ちなみに江國香織さんの小説にはこんな一文が。
「フレンチトーストが幸福なのは、それが朝食のための食べ物であり、朝食を共にするほど親しい、大切な人としか食べないものだから、なのだろう。」
ああ、なるほどって思ってしまったのですが、皆さんはいかがですか?